質問1: わたしは浄土真宗ではありませんが、それでも読んでおもしろいですか?
故・桂枝雀師匠もよくおっしゃってましたが、面白いか面白くないかを送り手が決めることはできません。「頼むから面白いと思って読んでね」という念波を込めつつ書いてはおりますが、手元を離れたとたん好不評の判断は受け手サイドにゆだねられてしまうのです。ですから、浄土真宗じゃないF.Uさんが読んで面白いかどうかは、F.Uさんご自身しか判断できないのであります。
でもこの本は初めから浄土真宗と無関係な読者をも想定しながら話が進行しています。ですから「宗教や仏教に興味はあるが、教団や教義には興味はない」という方も楽しんでいただけるよう腐心しております。そもそも内田樹先生は浄土真宗どころか、仏教にも与することなくご自分の宗教性を語られていますから。これを読むだけでも、元はとれます、間違いなく。
質問2:お経って本当に功徳があるの?お坊さんは意味が分かって読んでるの?
はいはい、ありますよ、功徳。それは、じゃーん、「お経を読めたというその行為自体が功徳」なのです。これは決してずるい逃げ口上ではありません。日ごろ過剰な欲求に振り回されている私が心静かに読経し、仏様のお徳を讃えることができた。これが功徳でなくてなんでありましょうや。
さて、お坊さんは意味が分かってお経を読んでいるのか、というご質問ですが…。お坊さんは仏教思想やご自分の宗派に関する教義などを一通り勉強しますので、おそらくみなさんそこそこは分かっていると思われます(あくまで想像)。ただ、精密な解釈となると、専門に勉強している学僧さんでないと分からないでしょうね。
また、お経は単に仏教の思想を書いたものというだけではなく、仏教儀礼の重要な要素ですので、ただ意味が分かれば良いというものでもないと私は思います。お経に抑揚をつけたり、旋律に乗せて読むことそのものも大切な宗教性です。学生の頃にスイスで世界の宗教者たちが集まる会議を見学したことがあるのですが、そこで日本から来た浄土宗のお坊さんたちが大勢で『往生礼讃(おうじょうらいさん)』を勤行されたのです。その場にいた世界各国さまざまな宗教者たちがみんな、そのあまりに美しい声明に滂沱の涙を流すのを見ました。言葉や意味を超えて宗教性が揺さぶられることがあるんだな、って実感しました、はい。
質問3:お坊さんはなぜ頭をそるのですか?
出家者はいつから剃髪していたんでしょうか。お釈迦様は、剃髪じゃなくて、数センチ髪を残しておられます。クセ毛だったんでしょうね、くるくるに髪が渦巻いていたと言われています。お経によれば、お釈迦様の弟子たちは剃髪しています。
当時のインドはお釈迦様以外にもいろんな思想家や宗教者が活躍していましたが、その人たちは髪を切らずに伸ばす傾向にあったようです。今でも、スィク教やラスタファリズムのように、髪を生涯切らない宗教は結構あります。
お釈迦様はものすごく衛生観念が発達した人だったので、剃髪を勧めるとともに、それがグループの印となったのでしょう。また、髪は生命力の象徴ですから、これを剃り落とすことは、世俗からの決別も意味していたと思います。
かつてカトリックの修道士さんたちも剃髪しました(今でも河童のお皿みたいな形に剃髪する人たちがいるでしょ)が、これも俗世間から離れ神にその身を捧げる証しです。
ちなみに浄土真宗の僧侶は出家受戒者ではありませんので、毛を伸ばしてもいいんです。
質問4:京極夏彦さんの『鉄鼠の檻』に、坐禅と瞑想は違うと書かれていましたが、私には違いがよく分かりません。この二つについて説明して下さい。
京極夏彦さんは私も好きでよく読みます。『鉄鼠の檻』は禅をテーマにした連続殺人事件でしたね。読むと日本の禅仏教についてけっこう詳しくなります。
さて「瞑想」は仏教のみならず、さまざまな宗教において実践される行為です。また「瞑想」にはさまざまな手法があります。動きやポーズのバリエーションも数多いですし(歩き続けたり、鳥のマネをしたり、死体のように横たわる等々)、一点を凝視したり(密教で実践する阿字観などもそうですね)、ある言葉を唱え続ける瞑想もあります。また、イマジネーションを喚起する手順も多種多様です。中にはドラッグを使って瞑想する宗教さえあります。
これに対して坐禅は、坐って実践する禅那(ディヤーナ)の一種です。ディヤーナは静慮や定とも訳されるように、姿勢と呼吸を整え心を定めて静寂の中で瞑想します。つまり坐禅は瞑想のある一手法だということです。
また禅は中国ですごく発達し、ある意味単なる瞑想の手法ではなく、ひとつの宗教として完成している面があります。ですから、禅は瞑想という領域で捉えきることはできない大いなる体系という言い方もできます。生活すべてが禅である、とさえ表現されます。
いずれにしても、坐禅=瞑想とは言えない、ということになるでしょうか。